シーサイド 伝統と革新を繋ぐ拠点「鯨波の家」
シーサイド 伝統と革新を繋ぐ拠点「鯨波の家」
設計:ma ヤマシタマコト
監督:波潟 靖
- コンセプト
- 「日本の渚 百選」に選ばれる、新潟を代表する海水浴場のひとつ鯨波。美しい砂浜と透明度の高い海水、波に侵食されて不思議な姿を見せる岩礁。シーズンには、県内のみならず首都圏からも多くの海水浴客が訪れる。
施主家族は、その鯨波の海岸添いで民宿を営む傍ら、ビーチピクニックやシーカヤックなど、海を拠り所としたレクリエーションを企画運営し、また障害者の方々にも積極的に海を楽しんでもらえる遊び方を提案するなど、様々な活動を活発に行っている。
夏の穏やかな気持ちのよい海の景色をながめ、同時に冬の日本海特有の厳しい潮と砂を含んだ強風に耐えながら暮らす家のあり方がテーマとなった。海との関係、西陽、隣接する旅館との動線、敷地の高低差、メンテナンス性など考えることの多い計画だった。
- 外観
- 敷地は道路をはさんで海に面し、前面道路より1Mほど上がっている。
日本の多くの海岸線に建ち並ぶ民家がそうであるように、この家でも外壁は杉板の縦張り押縁としている。すぐに砂にさらされてうづくりのようになっていくだろう。
屋根は腐食に強い瓦葺きとした。瓦職人だったお父様が瓦の割り付けから施工まで手掛けてくださった。三州瓦独特の釉薬の光沢が、杉板やそとん壁と非常によく合っているように思う。
杉の外壁と4寸勾配の瓦屋根は、日本では海沿いに建つ家に用いられてきた伝統的素材である。長い時間をかけて選ばれてきた素材には意味があると考えている。
ほぼ総二階の住宅だが、玄関 兼 応接間の部分は下屋となっており、この部分のみ意識的に軒を低くしている。玄関ポーチは7.5尺の懐があり、訪れるひとを包み込むように迎える。
- 内観
- 玄関ドアを開けると広がる14帖ほどの空間は玄関であると同時に、来客の多いこの家の為の応接間であり、執務の拠点となる。天井や家具には赤いラワン材を用いて、コクのある空間としている。玄関ドア脇の大きなはめ殺し窓からは日本海を望むことができる。
応接間から4尺幅の廊下を通り抜けると主室に繋がる。
主室は天井を栂小巾板、家具はナラ材を用いた明るめの色調とし、応接間とのコントラストを付けた。主室からも海が見える位置に1.2M角の開口と、海を見ながら作業ができるカウンタ―を設けている。
南側には充分な広さの庭があり、主室には庭に面して3間巾の大きな開口と吹抜けが用意され、明るく健康的な空間である。
2900巾の大きなキッチンと背面収納は大工と建具職人による製作キッチンで、扉のないオープンな作りだが、それがゆえに力強くもあり、またよく吟味して選んだタイルを用いるなど、施主のこだわりが見える。
食卓にはニューヨークから運んだというダイニングテーブルが置かれ、その上にはルイスポールセンのPH5のカッパーが下げられた。
仕事と生活が一つの住宅で共存するスタイルだが、それぞれが適度な距離を保つよう配慮した。
- 空調計画
- 一階床下と二階床下(階間)にそれぞれ一台ずつのエアコンを設置し空調を行う。各室の必要な個所に開口あるいはファンが用意されており、暖気・冷気を必要に応じて取り込む。下屋部分である応接間のみ、個別のエアコンで対応することとした。