新潟市東区の高台にある住宅街。約100坪の大らかな敷地に立つK邸は、アイコニックな左右対称のファサードが特徴だ。杉板という伝統的な素材を使いながらも、端正なフォルムの外観からは洗練された美しさが感じられる。
建物の一部はピロティになっており、そこは雨雪から車を守るカーポート。そんな機能も合理的に取り込まれている。
ご主人は新潟市秋葉区、奥様は新潟市東区出身。2017年にご主人の仕事の都合で東京へ引っ越したが、2019年の夏、三男の妊娠をきっかけに新潟市内で家を建てることを決め、2020年8月に新居が完成した。
ご主人が所属する会社ではコロナ禍の中でリモートワークが導入されたため、2021年4月現在も東京の部署に所属しながら新潟市の自宅で仕事を行っている。
新しい働き方が住む場所の自由度を広げており、ご主人は単身赴任をすることなく、地方都市のゆとりある暮らしと東京の仕事を両立できるようになった。
都心での生活を経験し、再び気持ちは地方へ
「2017年に新潟市から東京の事務所へ異動することになり、家族で引っ越しをしました。だいたい4年くらいの任期で、希望すれば東京に残ることもできるんですが、僕は東京に異動してから、5年目以降も東京で働こうと考えていたんです」とご主人。
「豊洲のマンションの15階の部屋が社宅で、そこで私たち夫婦と、長男、次男の4人で暮らし始めました。ショッピングモールのららぽーとが近くにあったり、お台場やディズニーランドに行きやすかったりと、遊ぶところがたくさんあって楽しい場所でした。ただ、子育てをするには大変なことも多かったですね。幼稚園の倍率が高くて簡単に入れなかったり、公園がいつも混みあっていたり…。住んでいた部屋はレインボーブリッジや富士山が見えて景色は良かったですが、エレベーターを待って下りるまでに時間が掛かりますし、戸建てのようにすぐに外に出られないことがストレスになっていました」と奥様。
東京で過ごしていた頃の休日の一コマ。(写真提供:Kさん)
都市生活の魅力を感じつつも、地に足を着け、自然があるところで子育てをしたいと思うようになったKさん夫婦は、都心から離れた場所に家を持つことを考え始めたという。
「都内だけでなく、埼玉県や千葉県、茨城県なども候補に入れて、実際に土地を見に行ったりもしました。つくばエクスプレスで通勤できるので、茨城県ではつくば市が候補に上がったんですが、新潟市よりも土地の値段が高かったりして…。結局なじみのない土地で決め手を見つけることができませんでした」(ご主人)。
「長男が小学校に上がる前に建てたいと思っていたんですが、知り合いもいない土地で学校のことや土地柄も分からなかったですし、2019年の夏に三男の妊娠が分かると、3人の子育ては実家の近くじゃないと難しいと思い、新潟に家を建てることに決めたんです」(奥様)。
友人宅で感じた心地よさが、オガスタを選ぶ決め手に
新潟で家づくりを検討する段階に入り、大手ハウスメーカーの展示場や地元ビルダー、設計事務所など、あらゆる選択肢を考え、いろいろなところへ話を聞きに行ったという。
最終的にオーガニックスタジオ新潟に依頼を決めたが、数年前に友人が建てたオーガニックスタジオ新潟の家に家族で何度か泊まりに行ったことがあり、そこでの体験が決め手となった。「暖かさや光の入り方、雰囲気などのすべてが本当に心地よくて。オガスタさんの家には理論だけでは説明できない魅力がありましたね」と奥様。
2019年の8月にオーガニックスタジオ新潟を訪れ、その年の11月に奥様の実家の徒歩圏内の土地を購入。2019年中はLINEのビデオ通話を使いながら設計担当の山田剛さんと打ち合わせを行い、2020年1月以降は週末にご主人が新潟に戻ったタイミングで対面での打ち合わせを進めていった。
「2020年の1月に妻と子どもたちが先に新潟に戻って妻の実家で暮らし始めました。それからは僕だけが東京に残って単身赴任をしていましたが、新型コロナウイルスの感染が広がった3月以降はリモートワークが導入されたので、僕も新潟に戻って仕事をするようになりました」(ご主人)。
庭とのつながりを重視したLDK
打ち合わせは、山田さんからヒアリングを受けて希望を伝えることから始まったという。「マンションで生活をしている時、すぐに外に出られる暮らしがいいなと思っていたので、それを要望としてお伝えしました。あと、子どもたちにごはんがどのように作られているのかを見せたいのと、夕飯の支度をしながら子どもたちの宿題を見られたらいいなと思い、キッチンとダイニングテーブルを並べていただいたんです」(奥様)。
「あとは、みんなが一緒に過ごす空間にゆとりを持たせたかったので、リビングを広くとっています。逆に2階の子ども部屋などの個室は寝るだけと考えて小さめにしてもらいました」とご主人。
そうして、庭へと開くゆったりとした1階と、水回りや個室をコンパクトにまとめた2階で構成された家が完成した。
ピロティにある玄関ドアを開くと、すぐ正面にリビングが現れ、奥の庭へと視線が抜けていく。
リビングの窓辺にはベンチがあり、散らかりがちな子どもたちのおもちゃはその中にすっきり収納。
一番左側には床下エアコンが仕込まれており、真冬でもこのエアコン1台で家中を快適な温度に保てるという。
家族5人で使える大きなダイニングテーブルの隣には、同じ素材の天板で統一されたキッチンが続く。ダイニングとキッチンでひとつの空間が完成しているため、料理をしている時もダイニングで過ごす家族と一緒の時間を共有できる。
そして、ダイニング横の掃き出し窓の外に広がるのが、大きなウッドデッキと庭だ。
「ウッドデッキでごはんを食べることもありますし、子どもたちはよくおやつを食べたり飲み物を飲んだりしていますね。庭は最近子どもたちと一緒に芝を張りました。それから、家庭菜園を作るために土を掘り返しているところですが、今年はトマトなどの夏野菜を育てようと思っています」とご主人。
キッチンの手前を過ぎると階段があり、その先は中2階になっている。こちらは天井が低いピロティの上を活用した空間で、ベンチに腰を掛けて本を読むことができる。
その隣の和室は、三男をお昼寝させたり、ゲストが泊まりに来た時に寝室として使ったりと、多目的に使える場所。「特にこれといった目的がある部屋ではないんですが、家族から少し離れた居場所として長男と次男がよく使っていますね」と奥様。
さらに階段を上がった先が2階で、バルコニーに面した浴室や洗面脱衣室、奥の目立たない場所には洗濯室が設けられている。
「2階の一角を僕の仕事用のスペースにしています。家を計画している時はコロナ前だったので、東京で単身赴任をするつもりだったんですが、リモートワークが導入されたことで、新潟で家族と暮らせるようになりました。通勤時間やお客さんのところへ移動する時間もなくなったので、平日でも子どもと遊ぶ時間がつくれるようになりましたし、夕方6時には仕事を切り上げて家族と夕食を食べられるようになりましたね。仕事が終わらない時は子どもたちが寝てから仕事を再開しますが、家に居ても差し支えなく業務ができています。あと、仕事部屋から洗濯室が近いので、家事の中では洗濯が僕の役割になっています」とご主人。
自然をすぐそばに感じられる新潟暮らし
東京から戻り、再び新潟で暮らすようになったKさん家族。その満足度はとても高いという。「新潟は森や川などそのままの自然がすぐ近くにあるのがいいですよね。スキーやキャンプなど、季節ごとの楽しみ方がありますし。今年は新潟市内もたくさん雪が降ったので、庭で子どもたちとそり滑りをして遊ぶこともできました。東京にも公園などの整えられた自然はありますが、どこも混雑していますし、ありのままの自然に触れるには時間を掛けて遠出をしなければなりませんでしたから」とご主人。
コロナ禍で新居が完成したため、住み始めてからは家で過ごす時間が長くなりがちだったが、都心のマンションとは異なり、ウッドデッキや庭に出て伸び伸び過ごせたという。
「今年は庭で野菜を育てる予定ですし、あとはバーベキューや燻製作りをしたり、庭でいろいろな遊びをしたいです。ピザ窯も作りたいですね」とご主人はうれしそうに話す。
おうちパン教室で新しい交流も
ところで、管理栄養士の資格を持つ奥様は、東京のマンションで暮らしていた時に幼児食づくり教室を行っていたという。
「次男が偏食でなかなかごはんを食べなくて、『幼児食インストラクター』という資格を取りました。それに、1日中マンションの部屋で子どもと過ごすのが大変だったので、近所のママを集めてみんなで料理を作って食べる会を始めたんです。私が献立とレシピを考えるんですが、1回の調理で大人用と子ども用の料理を作れるレシピを教えていました。その後、『おうちパンマスター』という資格を取り、トースターやフライパンでできるパン作りも教えるようになりました。おうちパン教室はこの家に住んでからも続けていて、『おうちパン教室mamano(ままの)』という名前で週3~4回ペースで開催しています。生地作りから完成まで1.5~2時間くらいで、できあがったパンをみんなで食べて楽しんでいます。マンションの時よりもスペースが広くなったので作業がしやすいですし、リビングで小さなお子さんを遊ばせておくこともできますので、ママさんたちに安心してご参加いただいています」(奥様)。
おうちパン教室mamanoの情報はインスタグラム(@ouchipan_mamano)やWEBサイトで公開中。最近は新潟市内のカフェや書店でワークショップを開催するなど、自宅以外でも講師として活躍する場が増えているという。
都心での子育てを経験し、改めて地方暮らしの良さを実感したKさん夫婦。新しい家は家族が伸び伸びとくつろげるだけでなく、パン教室という開かれた場にもなる。
「豊洲に住んでいた頃のブログ記事を読んでくれた方から『幼児食づくりを教えてほしい』と希望されることが増え、今後はそっちのレッスンも増やしていこうか考えているところです」と奥様。
新潟市という暮らしやすい地方都市で叶えた住まいは、家族にリラックスした日常をもたらすだけでなく、新しいつながりをも生み出し、人生をより豊かなものへと変える後押しをしてくれている。
写真・文 Daily Lives Niigata 鈴木亮平
「通り抜けピロティのある家」松和町の家
延床面積 122.00㎡(36.90坪)
家族構成 夫婦+子ども3人
竣工年月 2020年8月