レンジフードがない家って、どうなるの?

住宅設計
相模 稔相模 稔

レンジフードを付けない家の登場

最近、SNS で「レンジフードをあえて付けないキッチン」を目にするようになりました。
加えて、住宅関係者からの世間話でも、ここ半年で3件の事例を聞きましたので、
少ないながらも少しづつ増えている気もします。

取り付けしなかった人のコメントを追ってみると、次のような理由が並んでいます。

「高気密住宅だから計画換気でにおいは抜ける」

「そもそも凝った料理をしない」

「IH なら立ちのぼる湯気が少ない」

「外壁を貫通すると断熱欠損になるから」

なるほど、言われてみれば筋が通っているようにも思えます。
けれども、その選択は本当に“未来の自分”や“次の住まい手”にとってベストなのか。
ここでは、それぞれの観点から考察を整理してみたいと思います。

1. 室内空気質の悪化と内装への影響

「高気密住宅だから計画換気でにおいは抜ける」についてはどうでしょう?

計画換気は家全体の空気をゆっくり入れ替える仕組みです。
2時間で1回、家中の空気が入れ替わる換気量を基本としてます。
ところが、炒め物や焼き物で発生する微細な油煙は、わずか数分で天井や壁に付着します。
IH でも揚げ物や肉の焼き付けを行えば 200 ℃近い油煙が立ちます。

レンジフードはこの“瞬間的ピーク”を吸い取る局所換気装置であり、計画換気とは役割がまったく異なります。 油煙が抜けきらずに残留すると、内装・家具・カーテンに臭いが染み付き、結局は脱臭機やリフォーム費用がかさむという本末転倒になりかねません。

特に塩ビクロスの内装でキッチンの換気不足は要注意。塩ビクロスは分子レベルで見るとスポンジ状になっていて、中で匂いが分解されずに留まります。住む人は慣れてしまうようですが、来客者は臭いと感じるでしょう。

2. 凝った料理をしないなら省けるか?

「そもそも凝った料理をしない」という理由は、未来永劫続くわけではありません。
子どもが成長してパンやお菓子作りに目覚めるかもしれないし、暮らしは常に変わります。
さらに言えば、住宅は資産です。数十年後に売却・賃貸に出す可能性を考えると、標準設備が欠けている物件は敬遠されてしまわないかも気がかりです。

3.レンジフードにこだわらずに換気する?

「IH なら立ちのぼる湯気が少ない」という点に着目して、可能性を探るのは楽しい考察です。
ガスコンロは「火気」を使うので上昇気流が生じるので、レンジフードでキャッチするのが理にかなうし建築法令でも設置義務があります。一方で、IHは火を使わないし、鍋の湯気の上昇のみになるので気流は弱い。

そこで、ある工務店では3種換気を用いて、「床から排気」していた
確かにそうすれば、工事費が減少し、見た目もスッキリするメリットがある。
通常のレンジフードの利用でも、弱中強と風量を3段階使えるが、弱の180㎥の風量で通常の調理であれば匂いを消すには足りてしまう。大火力で中華料理を作るとき、魚を焼くなどの「中・大」相当の風量が欲しいなら、窓開けを更に併用する。

そのように、住む人と使いかた次第ではレンジフードは省けそうです
*弊社で家づくりを検討する人で、希望者があれば具体的なご提案をいたします。
しかし、空調機器メーカーのガイドラインには、300㎥以上の換気風量をキッチンに推奨しているので、本格的に調理をしたい人は省かないほうが良さそうだ。

4. 断熱性の低下になるのか?

「外壁を貫通すると熱橋になる」というのは確かにその通りです。
しかし、逆流防止ダンパーをつければ外気の風の影響は軽減できるし、この貫通部での熱損失は限定的なので、あまり気にしなくて良いでしょう。

ここまで「性能が」とこだわるならば、当然熱交換型換気扇を選ぶと思いますが、油煙に含まれる微粒子が熱交換換気の素子に付着してしまうことの方を気にしたほうが良さそうだ。
「貫通が嫌だからレンジフードを省くが、熱交換換気の汚れを防ぎたいので3種換気にする」というのは、熱損失防止の目的の観点だけだと矛盾する。
「やっぱりレンジフードをつけることにした」となるのが一番やっかいで、後工事で対応しようとなると、割高になる工事費用だけでなく、気密や防水での難易度が高くなります。

* IHすら省く人の登場

また別のある人は、ガスコンロだけでなく、IH調理器すら省いていた
フライパンでの炒め物やグリルなどでの調理はせずに、スチームオーブンレンジでの調理・冷凍食品の加熱調理だけで済ますつもりなのだろう。
「そもそも凝った料理をしない」という人の中には、ここまでのレベルの人がいるのだなと、聞いたときは耳を疑いました。

ファスト化する社会の一コマ

なんでも簡単・便利で清潔な「ファスト化」する社会では、家庭の食事すら最後の砦にはならないようだ。 今回のレンジフードを省く住宅の登場は、温熱的合理性よりも、むしろ「食のファスト化」の具体的な現象のケースがほとんどなのではないかと考えてます。
筆者はそれを批判する気はなく、ファストフードの隆盛からも、現代はそういう状況なのだろう。
想像するよりも、今の日本では、本当に従来のような料理をしない家庭が増えてきているのだろう。

内気循環方式のフードはどう?

超高性能住宅の界隈では、「内気循環方式のフード」を付けて対応するケースが見受けられます。
それに関して、筆者の見解を述べておきたいと思います。

例え話で、お風呂のお湯を連続的にきれいにするには、
「源泉かけ流しの温泉」にして、流れ込むお湯と、流れ落ちるお湯で、常に水の清潔さが維持されます。計画換気の考えも同じで、給気と排気をセットで行うという考え方です。

それに対して、家庭用に「24時間風呂」という、機械で風呂のお湯をろ過し消毒することで、いつでもお風呂に入れるという商品があります。内気循環方式はこれと同じ考えです。

換気と全く一緒に論じるわけには行かないと思いますが、「濾してきれいにする」よりも「入れ替えてきれいにする」のが確実で王道でしょうと、筆者は考えます。
NETで調べると出てくると思いますが、「24時間風呂」は水が入れ替わらないので、レジオネラ菌の発生が極めて高く、注意喚起されています。
(筆者の個人的な好みの話で、該当製品を非難する意図はありません。最終的に使い方だろうから)

内気循環方式のフードは、そもそも同時給排気レンジフードの倍の値段だし、4枚ものフィルター交換費用も馬鹿にならない。目的は貫通を無くすことのようなので、熱狂的な性能マニア以外には支持され無いのではと考えます。

相模 稔
代表取締役

相模 稔

オガスタの社長。 工務店経営のほか講演活動なども行う。 アメブロ「おーがにっくな家ブログ」もよろしく。

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