勉強部屋としての子供部屋について考える

住宅設計
相模 稔相模 稔

住宅設計の世界において、子供部屋をどうするか、古くから議論がありました。

日本人は近代において先進国の中でも子供を大事にする傾向は強いようです。
手元に「日本の木造住宅の100年 」というP312にもおよぶ資料があります。

ここに詳しく、江戸期から子供の居場所はどのように推移したのかとの記述があります。
江戸期においては、農家住宅の代表格の田ノ字の間取りであって
男はこの部屋で寝て、女はこの部屋で寝るというように、「個室」という概念はなかったわけです。
それが明治の啓蒙運動や大正デモクラシーの時代にくらいより、
子供部屋、すなわち勉学させる場所を設けようとの動きができました。
広縁の片隅に机を置けるように拡張したり、プチ増築がはやったそうな。
これが日本的な子供部屋のルーツとも言えるようです。
戦後の高度成長期は学歴社会の高まりであり、核家族化が進み子供部屋も、
「勉強部屋」という期待をこめて親はがんばって確保しようとしたようです。

昭和54年の調査でも、小学校4~6年生が子供部屋をもつ比率が 74%と案外高い。
イギリスが54% アメリカが59%にとどまっているのと比べて意外なくらい子ども部屋は普及します。
その一方で、1980年代になると、少年犯罪が問題視され、その原因が個室にあるのではないかという「子供部屋不要論」との意見が出てきます。

私らの(42歳)の時代が、子供部屋が一番大きかった時代ではないかと思うのだ。
当時田舎では8帖くらい与える家庭が多かったのではないだろうか?
たしかに横浜銀蝿ではないが、当時くらいから青年は荒れてきたのだろう。
そういう私も 中学校には10帖ほどの個室をあてがわれ、高校の時には離れの独立性の高い部屋をあてがわれていた。
こうなるとお城が如し。

それはさておき、 このころから 親と子の関係を巡る議論が、多彩になってくる。
近年でも 「ひきこもり」に代表される問題は収まっていない。
いわゆる「子どもの問題」を住宅の間取りによって対処できるのではないかとの考えが出てくるわけです。

勉強部屋としての子供部屋について考える

子供が進んで勉強しない。部屋に引きこもってまんがばかり見ている。 今も昔もこどもの教育でうまくいかないコトは悩みの種だったわけです。 
「子供の問題は、住宅の間取りで解決できるのでは?」
との世の切実なニーズをうまく取り込んでしまおうと、住宅業界は動きます。
分かりやすく形にしたのが、ミサワホームの「生涯学習の家」でした。
これは、「交流型のまどり」ということで「リビング階段」を提案した。(1997)
家から帰ってきてすぐに階段を登り個室に行くのではなく、リビングで顔を見せてからという発想が、大きくその後の住宅のニーズに影響を与えたと思います。
この頃からる程度 断熱性が進化して、階段を廊下に置く必要性も無くなり、今でも子育て世代からは、そのように設計を依頼されることは多いわけです。
*しかし、「生涯学習の家」のモデルハウスの間取りでは、2階の各居室に2~4帖のライブラリーがあるります。総二階の設計だから、2階を大きくするための意図があると思われます。
本当にそのままの間取りのこの家に住んだ家族には、あまりの居心地の良い子ども部屋で、引きこもりの子供が増えたのでは? (笑

子供部屋では勉強しない?

次に世論に影響を与えただろうものが「頭のよい子が育つ家」 でしょう。
有名中学合格者の、子供の勉強スタイルを調査した結果、子供部屋で勉強する子供よりも、リビングやダイニングの雑然としたところで勉強する子供が多かった。という内容のもの。
これにマスコミで一時話題になり、この流れに便乗した書籍や工務店もでたりもしました。
実は私も 当時プチ影響を受けまして、自宅リノベーションの際に、ダイニングに一間間の造作机をこしらえて、子供の勉強スペースと考えましたが、ガラクタ置き場になって見事にそこで宿題をしてくれません。     (_ _。)
テレビの前にあるでかい銘木のテーブルがあるのですが、どうやらここで宿題をやっているようです。 でも、見たいテレビをつけっぱなしにして、ちらちらやるものだからはかどらない。
う~ん 困ったもんだ。
本当にこんなんで 頭が良くなるのかい??

どうやって勉強させるのがよいのか?

こうしてみると 「どうやって勉強させるのがよいのか?」という事柄が、子ども部屋の主たる目的として捉えられていたようにおもわれます。

オガスタ文庫に 吉田桂二著の「木造住宅設計教本 」というものがあります。

おーがにっくな家ブログ |新潟で自然素材の家をつくる。社長の奮闘記

吉田氏は 連合設計という設計事務所の代表で、

チルチン系工務店を中心とすした工務店の設計での有名な先生。

この本の中で 端的に 「子供室のポイント」として3つ挙げている。

1:子ども室は広がり空間の一部として捉える。

2:子ども室に押入れを作らない。

3:複数の子供室がある場合は、共有スペースを設けること。  とある。

これは、端的であるがわかりやすい!

共感するところがかなりあるポイントですね。

1&3:

氏の設計思想の 「広がりのある間取り」 は、引き戸により開け放たれると

2つの間はつながるという、「和の間の感覚」 を現代に生かそうというものがある。

子ども部屋も 引き戸で廊下に開け放てれば、 普段は交流し、独りになりたいときにはなれるといえます。

2:

子供室が本当に必要な期間はそう長くもない。

うちの9歳の娘は いまだ雑魚寝で個室を与えていないが、10歳には与えるタイミングかもしれない。そして20歳になって、大学なり社会人なりになって

巣立っていくだろうし。

子供室なんてものは10年かそこらだけあれば足りるしろもの。

フレキシブルに対応できるようにしておく必要があろうかと思う。

押入れという 布団しか入らない固定化した収納を設けるのではなく、

置き家具などで可変的に収納が移動できるようにすれば 改装が容易。

間取りを固定化させない。

もはや成人になってしまった子どもしかいない世帯であれば、言うことも聞かないだろうが、小学校までのお子様しかいない家庭は、親の主体性で子ども部屋を考えるべきだとおもう。

決まりきったご要望 「子ども部屋は6帖間をとって、それとは別に1帖の収納も・・」

本当にそれでいいのか? 長期的スパンで家族のあり方を考えた場合は、そんなステレオパターンな要望でなくてもいいんじゃない??

もっと色々考えましょうよ。


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相模 稔
代表取締役

相模 稔

オガスタの社長。 工務店経営のほか講演活動なども行う。 アメブロ「おーがにっくな家ブログ」もよろしく。

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