杉文化・ヒノキ文化
ここで白状しますと、杉という材料を 私はかつて見下しておりました。
2年前までは、木造系ハウスメーカーにて働いていたのですが、そこの土台と柱が 「きそひのき」という材料を使っていたことからです。
ヒノキは法隆寺でも使っているほど強度と耐久性のある材料です。材としての素晴らしさは間違いのない良材です。
メーカー時代に、親父にヒノキヒノキとばかり私が言うものだから、
「新潟でうち(住宅)つくんだったら 杉らこてさ。 おら(俺)ったら杉の方が好きらね。」と、やんわり、一眼的な視野の狭さを諭してくれました。今になって ようやくそのことが分かってきた気がします。
日本の植林で 最も多い木材が杉で、2番目はヒノキです。新潟県のように雪の降るところは、ヒノキの先端は折れてしまうし日射量も必要なので、ヒノキは太平洋側で植林されています。
だから 関東以北のの家づくりは元来、杉の文化です。
杉の色は、黄色みがかっていて渋い感じ。 そしてヒノキと比べて安価です。だから 質素堅実を尊ぶ武家・農家の気質に合います。
一方で 関西ではヒノキが尊ばれます。ヒノキは 構造用の柱で杉の約2倍の価格です。色はピンクで華やか。優しい女性的な表情。 公家の文化に合うわけです。
では、新潟で家をつくるには何がふさわしいのか? 大地から生えてきたような家。 それはもう 杉しかないだろう。
歴史と風土からの観点。 そうした面も大事です。 ヒノキ普請では よその人ということになるし、嫌味っぽく思えてきました。
杉の素晴らしさは 中庸 であること。
「過不足無く隔たりの無いこと」 これこそ最高の素質です。
- ① 高くない材料。
- ② 強度も住宅用としては必要充分
- ③ 耐久性もまあまあ。
- ④ 何でも使える。
高くてよい材料であればあたり前であるが、 安いのに「普通に優れている」材料であること。 コチラの方が用の価値がある。
②③お寺は千年持たせようという建造物だからヒノキだろうが、住宅はせいぜい百数十年。 杉でも充分なんですよ。
④ ヒノキは土台・柱には使えるが、 値段が高いから梁や垂木などには使わないし、まして無節だと高すぎて内部造作材でも使えない。
一部パネリング(羽目板)で天井仕上げもやれますが 杉の4倍くらい材料がしますからね。ふんだんには使えない。 その点、杉は一番使いまわしのする材料です。
ヒノキは耐久性があるので、外壁に使って無塗装で済ませている実例を雑誌で見て、それならと真似をしようと思いましたが、調べるとかなり困難である。
ヒノキは杉に比べて節が大きく、色のコントラストも大きい。外壁にすると節の周囲から割れる確率が高いということが分かった。じゃぁ 無節ともなると 何倍も㎡単価が上がる。 庶民が用いるのは現実的ではない。 やはり 外壁は杉板なんです。
内でも外でも使える。 なんともオールマイティ。
杉の 仕上げの素晴らしさ
ほんとう 中庸なんですよ。 柱として良し、見せる梁としても良し、枠材としても良し。
色味のニュートラルさといいますか、
ラワンでもベイマツでもシナでもタモでもサクラでも どんな木材が 隣に使ってもけんかをしない。これほど 他の木材との相性の良いものはないのではないか?
それが「中庸の徳」というものだ。 そして、塗装をすれば杉のすごさが分かる。
広葉樹系は 塗料の浸透性がきれいにゆかず、着色後に変にむらになったり
大体において 表情のランクが落ちるケースが多い。特に水溶性の顔料だと毛羽立ちお話にならない状態になる材料もあるのです。
ヒノキも油分が多すぎて、水溶性の塗料はのらない。うまく塗装ができない。
しかし、杉は何でもこいです。
油性(蜜蝋ワックス・オイルステイン) 水性(柿渋+弁柄 胡粉) なんでも化けてくれる。 杉は舟にも使うくらい水に強いので、塗れても肌理が崩れない。だから 塗装もうまくいく。
(杉板塗装事例: 親松の家)
いわば、アジア系の女子フィギュアスケート選手の顔のように、すっぴんでは普通っぽいが化粧栄えするといいますか、素直な素材なんです。
杉はお米
杉のすごさとして、似通っているのは 「お米」でしょうね。
- ① 気候風土に根ざす 切っても切れない存在。
- ② 毎日食べても飽きない
- ③ 何にでも相性がよい。
ということで、日本の木造住宅において、杉の地位はゆるぎないと思います。