「大工のワーキングプア問題を提起する。」
被災大工を語る上で、この問題を前提として読者に知ってもらいたい。
東北の大工手間の実情
震災前に東北の建築事情に精通している二人の方とお話しする機会があった。
一人は断熱部材メーカー大手の新潟支店長。彼は東北なまりで東北の大工の苦境を証言する。「新潟市で大工さんの日当って15,000円くらいだそうですねぇ。赴任になってびっくりしました。岩手県の宮古市あたりの大工さんの日当を知ってますか?たった7,000円ですよ。これで、車買ってガソリン払って道具買えたって無理ですよねぇ。」
宮古市といえば甚大な津波被害のあった地域である。沿岸部の大工さん。休みもろくにとらずに働いて収入は年で200万円ですらにしかならない。これでは食えないから、奥さんがパートで水産加工場に働きに出てカキの身を剥いて、なんとか暮らしているのをイメージした。
その後、新住協の後の懇親会で、秋田県能代の西方先生 とお話しした。
先生の嘆いていることも同じ問題だった。
「大手のローコストが東北に進出してきて、ぐっと大工手間が下がって1人工7000円まで落ちてしまった。一度下がると下げ止まりになり大工は生活苦を余儀なくされている。」
全国的にも大工という職能は、経済水準は高くはない、東北はなおの事であろう。
そこでもってこの被害である。
4/27日に電動工具を手渡ししてきた宮城県七ヶ浜の大工さんのケースでは、大工道具揃えるのに100万円かかり、現金では買えず5年ローンを組んでいる。ローンの支払いは残り道具は塩につかりだめになった。そうなると自力で大工力を取り戻すのは非常に困難だとわかってもらえるでしょう。
津波被害の大工さんへの全体的な支援状況についてはまた別の記事とさせてもらいます。
新潟の大工さんの事情
私も、お二方からこの話を聞いたときに、「これは東北の郡部の話であって、新潟市はまさかそんなにひどくはないのではないか。」と考えていた。
しかし、支援物資を届けてくれた私らの大工チームの一人から、新潟資本の某低価格住宅大手の大工の手間の情報を知る。
「若くて体の動く大工で、1人工1万円。手が遅い大工だと7,000円にしかならないんですよ。」
例えば30坪程度の小型住宅。推定でローコストであれば70人工。2.5人がかりで休みなく1か月ちょい働いて70×7000円=49万円にしかならない。
一人当たり20万円には届かない。だから彼らは灯光器を頭に着けて遅くまで残業したりしている。現場を持たされているときには、自分の現場に向けた営業ができない。
結局、仕事が切れるので、また次にその割に合わない現場を入れてしまう。
散々、現場で働いたのに赤字になったり体を壊したりで廃業した大工の話も聞いた。
住宅を作る上で主役の働きをしてくれて社会には不可欠の職種であるにもかかわらず、特にローコストパワービルダーの影響で、このような困窮生活にある現実を知る人は少ない。
資本主義社会では、価格は市場が決めること。 住宅を手に入れる人からすれば、末端の作り手の生活状況などは関係ないかもしれない。
佐渡島の朱鷺は国の保護のもとで、絶滅はしばらくの間はないだろう。
しかし、その前に大工は絶滅してしまうのかもしれない。
生きていけないような仕事であれば、だれがなりたがろうか。
(左官職人の高齢化ももっと深刻である・・・・)
大工のワーキングプアの問題は、日本人の暮らしのインフラを脅かす。
日本中の大工が弱り果てたら、例えばだれがこのような事態になった時の家屋の改修をしてくれるというのだ。
などと記事をまとめていたら、M大工からこんなことを聞かされた。
「(新潟県のある地域)の大工なんか親子二人で1万だよ。3人で1万8千円みたいにセット販売なんてのもあるし、とんでもないことになっている。(苦笑)」
負のスパイラルですよ。
そんな息子じゃ嫁をもらえるわけもなく、生涯独身で後継者もできない。
親子で1万であれば、息子は当然3000円程度か?
本当に社会というものが壊れているんじゃないかと耳を疑いました。
「安ければいい。自分だけ良ければいい。
たとえ社会がどうなろうとも。」
もう、そんな考え方は、もうやめませんか?
何も世の中が良くなりません。
これが 住宅建築の現場で実際に起こっていることなんです。