「エコハウスのウソ」BOOKレビュー
たまたま本屋で「初心者向けでキャッチ―なタイトルの本だな」と冷やかしで手に取りペラペラ眺めると、なかなかあなどれないおもしろい文章のキレ具合です。
作者をみると、近頃名前を聞くようになった東大の前真之准教授とあります。
思わず買って読んでみました。
まずは 活字フォントのサイズが異常にデカい。
さらに、文章も端的で、たとえ話の使い方をはじめ大変わかりやすい。
例えば文章はこんな感じ:
「日本人にとって『究極のメニュー』とは「コメ」。毎日食べても食べ過ぎず、栄養バランスのとれた主食。それこそがまさしく「究極」。温熱感の評価においては「快適」とは「不快でない」こと。「究極に快適な冷暖房」とは毎日長時間いても不快に感じず体に負担とならない、「コメのような」空間をつくるものである。」
体言止めで短文の畳みかけでのテンポがここちい。
他にも 熱の伝わり方の3パターンを説明した例で
「伝導」はパンチ。直接接触することで熱を伝える。
「対流」はボール当て。ボール(空気や水の粒)がエネルギーを伝える。
「輻射」はレーザービーム。何もない真空でもエネルギーを伝えられる。
もちろん図解も直観的に分かりやすく乗っている。
内容以前に、「読みやすいかどうか?」がじつに大事な要素です。
「温熱」の分野は、説明能力が問われる部分である。
目に見えにくい分野の話で、喧々諤々、何がイイだ悪いだとかなりがちな分野であるから、最後の最後は説明能力なんですね。
想定している住宅性能が低すぎるのが残念な点
内容的にもほとんどは文句なしなのであるが、唯一気になる部分があった。
「吹き抜けは暖房するのが非常にヤッカイ。温風が床に届かない」
というテーマで、上下左右に広がりのある、現代の主流となった大空間にメスを刺す。
「熱ムラは困ったものだが」とことわりつつ、吹き抜けはやめ、「必要な場所を必要な時間だけ暖房する方が省エネになるという「当たり前」のことを再認識する必要がある。」
この説は、部分では正解で、部分では不正解といえるわけです。
「今回のシュミレーションでは(中略)断熱仕様も等級4(次世代基準)相当というハイスペック」
という記載が出てきて なるほどと思う。
前氏の想定している建物は次世代クラスの断熱性を想定していということだ。
そのクラスでは 大空間にすれば暖房の無駄が多く、上下温度差も大きく問題が出る。
おっしゃる通りだろう。
でも次世代省エネ基準はハイスペックでもなんでもない水準で、全然物足りない性能であることは、我々の仲間のなかでは共通認識。 新住協の推奨する「Q1.0住宅」クラス程度でないとハイスペックとは言えないのではないか?
我々の共通認識はこんな感じ。
「リビングだけ人がいるときに暖房しているという低断熱住宅での光熱費と同じ程度で、 24時間全館暖房出来る位の家にしようね。」
それが、新住協においてはQ1.0住宅という高性能住宅(ハイスペック)の要求水準です。
温度差を無くしたいのだから、全館暖房へ。であれば、大空間の方が温度制御がしやすい。
性能が向上すれば上下温度も2度以下で体感できないほどまでよくなるね。
このクラスの性能になると、間欠暖房でやろうが24時間暖房にしようが燃費はあまり変わらない。だったらつけっぱなしにしようよ」。
というのが高性能住宅推進派の共通認識であるわけです。
前教授の推奨の局所暖房+間欠暖房は、エネルギー効率だけでいえばごもっとも。
でも、快適領域を狭めて・不健康な要素を残した室内空間が併存する不満と、そうして浮かせたエネルギーコストでは釣り合いが取れません。
それにリビング階段や吹き抜けも無い。リビングとダイニングを冷暖房の目的で区切るなんて、昭和の家じゃあるまいし狭苦しくて設計者もユーザーも満足しないであろう。
とはいいつつ、新築でも次世代省エネクラスが世の中のマジョリティだから、このような説はある意味、正しいのだろう。
そういう意味で、部分で正解で、部分では不正解な個所がある。
全般的には天下一品に分かりやすい断熱本であるが、現代の高性能住宅の先端の実態からするとそぐわない面があった。
最後に、具体的にどの程度の「エコハウス」を目指したらいいのか?
仕様の規定と設備も含めての推奨をしてくれていれば、前氏が何を本当に理想としているかが見えてきたようにも思えます。(投資費用対効果検証も行って)
と小言を言いたくなるのは我々サイドの問題で、初学者の学習用ということであれば
これでいいのか。
というわけで、世間一般でエコハウスに興味がある人は必見の良書です。
追記:
エコハウスのウソは、2015年に大幅に 増補改訂され 指摘の部分が改善され完璧ともいえる内容となりました。 家づくりを検討している人向けの断熱本としてはバイブルです。