建築家の伊礼智様から「心地よさのものさし」という
タイトルの本をいただきました。
自らの設計手法をわかりやすく、事例を交えながら、
写真も豊富に紹介している「作法シリーズ」第3作目の本です。
伊礼さんは、10年以上前から、自ら率いる設計塾を通じて、地域の工務店の設計者を指導し続けている。伊礼式・設計メソッドの体系は「型」として完成されていて、その教えを受けた設計者は数多い。
剣道、茶道、生花、空手などの日本の芸能における修練では、まずは「型」を叩き込まれる。 守破離における「守」のステージが伊礼設計塾である。
そこから他の良いものを取り入れ、独自の自分のスタイルへと転化していく工務店も現れ、ベガハウスやCOMODO建築工房という、アーキテクトビルダーへと注目が集まった。
「伊礼流」住宅作法の家元である。
性能とデザインのせめぎ合いがテーマ
今回のテーマは、伊礼さんの言葉で表現すると、
「数年にわたる性能と意匠の狭間での格闘」と、その取り組みについてがテーマです。
本のタイトルの「ものさし」とは、耐震・断熱という数値化でき客観評価できる「ものさし」と、自身の経験の蓄積で創り上げてきた評価判断という、「もう一つのものさし」がある。
その両方のせめぎ合いを、読者はページをめくって、読み取っていくことになる。
今回8件の住宅の事例が紹介され、すべてにC値、Q値、Ua値の性能数値を公開し、
断熱仕様や空調関係の情報も同時にオープンになっている。
伊礼さんの設計思想として、道路から接する部分はコモン(公共性の場)であり、オモテである。つまり、道路方面の敷地は私有財産ではあるが、公的な役割が備わっているとの発想。
だから、コモンは豊かな植栽と、外構でつなげられ、建物の佇まい雰囲気を大事にしている。 ゆるぎない姿勢に、大いに共感です。
今回は性能との戦いであって、空調設備計画についても言及をされている。
OMソーラーの利用が多いのかなと思っていたら、今ではさほどでもないようだ。
そのかわり、床下エアコン方式はかなりされてるようで、
冷房やメンテナンスに配慮した、独特の伊礼流が紹介されている。
「型」から固有性へと答えを出す
ほかにも、それぞれの物件で「特有のテーマ」があり、柔軟に対応している。
2世帯住宅の事例では、近年の同居の傾向と対策について触れているし、
お寺の庫裡の設計の事例で、近隣の屋根の秩序に合わせるために、
初めて和瓦を載せることへと挑戦している。
さすがに「型」は確立されているけれど、柔軟に「離」れる姿勢に柔らかさも感じる。
最後に「魚沼の家」の事例も紹介がある。
はじめての豪雪地での事例であって、依頼者のフラワーホームの藤田社長もZEHにチャレンジしようとしていた案件です。
屋根の設計や、断熱性能、暖房形式などで、私も相談で交えてもらった住宅です。
本をいただいたのも、そのお礼ということのようで、
さすが一流なる方は気配りも一流です。
豪雪地帯なので、雪が落ちるように屋根勾配を急にしたい。
しかし、あまり勾配を高めると不恰好になってしまうため、伊礼さんは緩くしておきたい。
うちの事務所は2寸勾配とのかなり緩い勾配ですが、ソーラーパネルが搭載されているために雪が滑り落ちていく。それを参考に3寸勾配でエコテクノルーフに決定したのですが、
降雪量が桁違いに多いのと、外気温の影響、ソーラーパネルの微妙な段差、
3寸にしても思ったように滑り落ちてくれず、雪庇ができてしまった。
ケラバの雪庇に押されて、煙突が曲がってしまったエピソードが紹介されています。
(豪雪を甘く見てはならぬな、不細工でも4寸であったのか・・・・)
他にも雑誌で紹介されていた物件も多く、半分ぐらいは見たことのある建物が紹介されていました。
性能のその先へ
長きにわたり自らの事例情報をオープンにしていただけていることで、工務店の設計者のみならず一般のユーザも含めて、「居心地の良い家は何なのか」
今回の本では、単なる性能だけではなく、その空間的な豊かさ。
特に 「窓のあり方の重要さ」 「外構の重要さ」
我々では伝えきれない一番大事なことを、
一貫して広く世の中に伝えていて下さるのでとてもありがたい本です。