100坪の土地で植物と共に。
多種多様な草木が茂る庭のある暮らし
JR白新線・佐々木駅。新発田市の西部に位置する、市街地から離れた小さな駅だ。
JR白新線の佐々木駅。
そこから徒歩8分程の場所で分譲された100坪の土地を購入し、Iさん夫婦は家を建てることにした。
ご主人の実家は新潟市中央区、奥様の実家は新発田市。その間で検討を始めた時に紹介してもらった土地で、条件の良さから即決したという。
「それまではアパートで暮らしていましたが、ガーデニングや家庭菜園ができる暮らしがしたくて。広めの土地で駅にも近く、しかも安い土地だったんです」(奥様)。
「駅まで歩いて8分ですが、坪単価は数万円。3区画あったんですが、裏に竹林があるのが気に入って右端の土地を選びました」(ご主人)。
そんなゆとりある土地に立つI邸は、2017年の春に完成。竣工時からご夫婦が自らの手で作り続けてきた庭の植栽が茂り、建物は緑に隠れるようにそっと佇んでいた。
2017年春。竣工時のI邸。2019年6月。
竣工から2年が経過したI邸。
小屋のような家を求め、オーガニックスタジオ新潟へ
建てるなら木の外壁で小屋のような家がいいと考えていたご主人。「中村好文さんの住宅が好きで、なるべく簡素な小ぢんまりとした家に住みたいと思っていました」。
オーガニックスタジオ新潟に興味を持ったのは、自然素材をふんだんに使った美しい佇まいに惹かれたからだという。それに加え、相模稔社長がブログで展開する、エビデンスに基づいた断熱性能の詳しい説明が依頼の決め手になった。
「見学会で『紫竹の家B』を訪れ、外構も素敵だなあと思っていました。その後もいくつかの見学会を訪問し、惹き込まれていきましたね」(ご主人)。
陰翳礼讃に重きを置いた、落ち着いた空間
最終的に完成したのは延床面積33坪と、新潟県内では標準的な広さの家。
「影や暗さに美を見出す『陰翳礼讃(いんれいらいさん)』の考え方も好きでしたし9坪ハウスにも興味があって。設計の山下真さんとの打ち合わせでは、とにかく『狭く、暗く、低く』を連呼していました。山下さんには、『実際もっと広い方がいいですよ』とアドバイスを頂いて現在の大きさに落ち着いた感じですね」とご主人。
「私は小さい家にしたいというこだわりはなかったので、良かったなと思います(笑)」(奥様)。
ご夫婦がこだわったことの一つは、和室を中心にすること。I邸では8畳の茶の間がダイニングでありリビングとなっている。
座位で食事や団らんを楽しむ昔ながらの日本の暮らし方を選んだ。
天井を低めに抑えた8畳の和室に柔らかい光が注ぐ。
天井高は2,130mmとかなり低めにつくられており、水平方向に広がる落ち着ける空間が完成していた。南側の窓は床から少し上げており、窓辺の板は腰をかけるのに丁度いいベンチにもなる。
写真左に見える棚はDIYが好きなご主人の手作り。そこにはご夫婦が好きな古道具が並ぶ。奥に見えるTVボードには小さな液晶テレビが置かれているが、主張しない小さなテレビからも、Iさん夫婦の美意識が感じられる。
南側の窓から望む庭の景色。簾もよく似合う。
TVボードの格子の中はオーガニックスタジオ新潟が得意とする暖房システム「床下エアコン」だ。基礎内を断熱し、エアコンで床下を暖め、床の随所に設けられたガラリから温かい空気が家じゅうに広がっていく仕組みだ。
「冬の間は24時間エアコンのスイッチを入れっぱなしにしていますが、マイルドな暖かさで気持ちいいですね。冬の朝起きるのがすごく楽になりました。アパート暮らしの時は朝になると意を決して布団から出てヒーターのスイッチを入れていましたので(笑)。洗濯物も乾きやすいですし、湿度も丁度いいですね」とご主人。
小さな空間を丁寧に作り込み、使い勝手よくまとめる
家の南北に庭が設けられており、それぞれ庇に守られた広縁がある。
茶の間側(南側)の広縁は主庭を眺める特等席。腰を掛けて庭を愛でたり、庭仕事の休憩をしたりするのに最適な場所だ。
一方、建物奥の北側の広縁は洗面脱衣室の掃き出し窓を開けて出られる場所にあり、洗濯物を干すのに重宝する。
北側に設けられた洗面脱衣室。造作の洗面台や造作家具が味わい深い。
洗面脱衣室の横に繋がる広縁。
木塀の外には隣家の竹林が広がり、その涼しげな景色を眺めながら過ごすことができる。こちらの庭は、日陰に強い植物を選んで植えているそうだ。「でも実際にはそれなりに日当たりが良くて、試行錯誤しながらやっています(笑)」と奥様。
北側の庭を正面から眺められるのは3畳の小部屋。
「妻が服をつくったり絵を描いたりするのが好きなので、そのためのスペースとして設けました。去年子どもが生まれたばかりなので、今はベビーベッドを置いて子どもの昼寝スペースに使っています」とご主人。
掃き出し窓の高さは150cm程と低めにし、籠もり感をつくり出した。この窓と南側にある茶の間の窓を開けると、気持ちいい風が抜けていくという。
小部屋の隣にはウォークスルーの収納スペースがある。
半分は可動棚、半分は洋服掛けになっており普段使いの物をさっと取り出せる。
建具を省略しているが、目立たない場所に設けているので生活感を感じさせることもない。2畳程の空間だが、使い勝手のいい収納だ。
キッチンはスペースをとらない壁付け式。
手元を自然光で照らすように窓を設けており、上部には普段使いの食器が取り出しやすい吊り棚がある。
手前の作業台は茶の間からは見えにくいように設計されているので、雑多にしておいても気にならない。
その反対側はデスクにしており、ちょっとした書き物をする場所として重宝しているそうだ。
上部は3畳分の吹き抜けで、柔らかい光を取り込むと共に、1階と2階の空気の対流を促し全館冷暖房の効率を良くしている。
他にも、冷蔵庫を目立たない位置にレイアウトするなど、細部までよく考えられた設計がなされている。
4畳弱と広めにつくった玄関には、ご夫婦のロードバイクがゆったりと納まっている。
玄関ホールには、ご主人が角材で作ったハンガーラックが。
休日は子育てと庭づくりに精を出すようになり最近はあまり自転車に乗っていないそうだが、以前ご主人は瀬戸内のしまなみ海道を走ったりと本格的に自転車を楽しんでいたそうだ。「最近では自転車を下ろすこともなく、雨具掛けになっていますね…」と苦笑いした。
図書館のような、アトリエのような2階
階段を上がると、中央に吹き抜けがある20畳ほどのワンルームが現れた。
2階も天井高は低めに抑えられている。
間仕切りは「子どもが大きくなったら必要に応じて」という考え方で、あえて仕切らない状態にしたという。
その内の一角はご夫婦の蔵書が並ぶ4畳のライブラリー。
「本が好きで、図書館や本がいっぱいあるカフェも好き。それで、家に本棚のある空間が欲しかったんです」と奥様。奥様のアトリエも兼ねており、ここで水彩画を描いているという。
別の一角はお子様の服をつくる作業スペース。
この日、お子様が着ていた服も奥様の手作りだ。
コツコツと庭をつくることが夫婦のライフワークに
通常オーガニックスタジオ新潟の家は外構も含めた提案がなされるが、Iさん夫婦はアプローチの敷石とカーポート以外は自分たちで作ることにした。
「ランドスケープデザイナーであるポール・スミザーさんの本のナチュラルガーデンを参考にしながら、新潟の気候でも育ちやすい植物を植えています」という奥様。
庭の設計図やスケッチを描きながら、具体的なイメージを作り込んでいったそうだ。
「自分は造園や土木事業をしている会社に勤めているんですが、造園部門の人に教えてもらいながら、庭を作っていきました」とご主人。
「今は完成度はまだ50%くらい。植える場所が悪いとうまく育たなかったりもします。でも、悩みながら作っていくのが楽しいですね。いつまで経っても完成はしないのかもしれません」と奥様。
雑草の成長スピードが速い夏は、草取りも大事な庭仕事。
「定期点検に来るたびに庭が変わっているので、毎回驚かされますね」と話すのは、オーガニックスタジオ新潟の設計部の山田剛さん。
色とりどりの草花が入り混じる庭は、野山の自然を切り取ってきたかのような多様性がある。杉板の素朴な建物がそんな庭の植物を引き立てながら、美しい風景をつくり出している。
文・写真 鈴木 亮平 (Dairy Lives Niigata)
取材時:2019年6月8日
I邸
新発田市
延床面積 109.34㎡(33.08坪) 1F 69.68㎡(21.08坪) 2F 39.66㎡(12.00坪)
家族構成 夫婦+子ども1人
竣工年月 2017年3月